ユリトピア宣言

万国の無産階級、団結せよ!

不意に、個人的に好きな百合シチュエーションをまとめてみたくなりました。

☆大好きな女の子のために命がけで戦う。
 そんなシチュエーションにぐっときます。私の中で特に好きなのが、「ヤミと帽子と本の旅人」「魔法少女まどか☆マギカ」。前者は、主人公・葉月が、行方不明になってしまった姉・初美を求めて、図書館の管理者・リリスと共に様々な「本の世界」を冒険するストーリー。特に第9話の、初美に瓜二つの竹の砦の姫君・藤姫を守ろうと、剣一本で悪役を一網打尽にするシーンは後述・第7話の○○シーン、初美へのただならぬ想いを感じさせる第1話のAパートと並んで、大好きなエピソードです。
 後者は非常に有名な作品であらすじも不要かと思いますが、おおざっぱに言えば、過酷な運命に抗う魔法少女たちのストーリー。特筆すべきはやはり第10話。ほむらのまどかに対する想い、そしてループを繰り返してきた彼女が、いかに親友・まどかのために命がけで戦ってきたかが描かれ、非常に心打たれます。だからこそ、デビルレズと化した「叛逆」は個人的になかなか受け入れられなかったり…。
 「戦う」と言っても、魔法や不思議な力を使って、悪者と戦うだけではありません。非ファンタジーでも、多くの百合作品でこのシチュエーションは描かれています。かつてケロQから発売された「素晴らしき日々」の3章「文学少女と化学少女の物語」(HappyEnd)では、いじめられっ子・高島ざくろと橘希実香が手を合わせ、いじめに立ち向かうドラマが描かれます。百合少女漫画の傑作・「ブルーフレンド」でも、寡黙で無愛想、でも美少女の月島美鈴のために、主人公・栗原歩が奮闘していました。かつて「いじめと百合」について記事を書きましたが、いじめに立ち向かう作品では、いじめられる主人公のために、友達が命がけで戦ってくれる場合が多いので、自然と百合っぽい作風になりますね。

☆大好きな女の子を想ってこっそりと○○しちゃう。
 R-18な内容ですけど、自慰行為とか。好きな女の子に自分の気持ちを伝えることができずに、つい妄想の世界で欲望を満たしてしまう…そんなシチュエーションも好きです。
 「ヤミと帽子と本の旅人」・伝説の第7話では、主人公・葉月が初美を想って、そんな行為に耽っていました。
 他、成人向けの漫画などでも、類似のシチュエーションをよく見かけますね。ちなみに個人的には、セックスまで発展してしまうシチュエーションはあまり好きではありません。妄想の中でならOKなんですが。安易な肉体的接触は萎えますね…。
 ところで、好きな女の子に気持ちを伝えることができずに、ついつい奇行に走ってしまう…というシチュエーションも同様に好物です。
 「野ばらの森の乙女たち」では、ヒロイン・穂波が、主人公・初美が学園祭用に作った下手くそなクマのマスコットをこっそりと拝借していますし、「のんのんびより」では、ほたるんこと一条蛍が、想い人・小鞠を模したぬいぐるみ「こまぐるみ」を大量生産しています。「猫目堂ココロ譚」は短編集ですが、そんなシチュエーションの作品が多かったような。他、好きな女の子の私物を手にして、匂いを嗅いでしまう、そんなシチュエーションも素敵です。
 愛をストレートに伝えられず、それが本人の中で屈折してしまい、「秘め事」となってしまうシチュエーション。切なくて、とても素敵です。

☆大好きな女の子のために、身の回りのことを何でもしてあげる。
 いわゆる世話焼き。家事全般が得意な女の子が、だらしない女の子のために世話を焼いてあげるというようなシチュエーション。具体的な作品を挙げるとすると、真っ先に思いつくのが「くろよめ」内の作品「めとらば」です。仕事に忙殺される藤先生のために派遣された小桃は、炊事・掃除その他仕事のお手伝い何でもしてくれます。それも、先生を気遣って、静かに掃除を行ったり、好きなお茶を入れてあげたりという徹底ぶり! 一つ屋根の下で共に共同生活をする女の子同士は、見ていてとても癒やされます。

タイトル:ブルーフレンド
著者:えばんふみ(りぼんマスコットコミックス)
発行日:1巻:2010年9月15日、2巻:2011年2月15日

41HsSZms+gL


 中学2年生の歩が出会ったのは、どこか影のある美少女、月島美鈴。正反対の性格の2人だったが、いつしか惹かれあうようになっていき…!? 恋と友情のはざ間で揺れ動く10代の危うい青春グラフティ、第1巻!!
男勝りのまっすぐな性格で女子に人気の少女、歩。男子に人気だが、どこか影を秘めた美少女、美鈴。突然のキス、嫉妬、誤解…。様々なことを乗り越えて互い に強く惹かれあっていく2人。だが、美鈴の過去を知る謎の少女、東の登場で事態は思いがけない方向へ動き出し…!? 最終回の後日談となる長編100Pも 収録された新世代ガールズラブストーリー、第2巻!!

  • 愛を知らずに育ったヤンデレメンヘラ美少女とまっすぐな王子様
 主人公・歩がクラス替えで隣の席になった校内一の美少女・美鈴を気に掛けるようになったことをきっかけに彼女に依存され、互いに惹かれあったり、時には突き放すこともありましたが、最終的には美鈴の男嫌いの原因となるトラウマを乗り越え、新しい一歩を踏み出し始める…というのがだいたいのあらすじです。「偏愛」から「友愛」へとシフトしていく、美鈴の成長物語でもあります。

 さて、「ブルーフレンド」の大きな特徴は、ろくな登場人物が登場しないことです。

・「俺に恥をかかせるな」が口癖の、血の繋がらない美鈴の父親
・男をとっかえひっかえしたあげく、最終的には美鈴を置いて亡くなった美鈴の母親
・小学生の美鈴に手を出そうとした病院の先生
・その先生の婚約者で、事件が原因で人生を狂わせられたと、美鈴を逆恨みし嫌がらせをしていた保健の先生
・至る所で井戸端会議という名の噂話・悪口をする女子生徒たち
・美鈴と付き合うために、友人の歩を利用しようとした男子生徒
・雨でずぶ濡れの美鈴をホテルに連れ込もうとするチャラ男たち
 …などなど

 そのような優しくない世界=私たちの現実世界によく似た悲しい世界が舞台となっております。
 ヒロインの美鈴はそんなろくでもない登場人物たち(主に上記4名)の被害者とも言える存在であり、事件以降ずっと心を閉ざしていました。ですが、いつもまっすぐで裏表のない主人公・歩の登場をきっかけに心を開き始め、これまで抑えてきた他人への愛を全て歩に向けるようになります。
 突然のキス。「歩だけでいい」「あんな奴に歩を取られたくない…!」「じゃあもう他の女の子と仲よくしないで!」…美鈴の独占欲はとどまることを知りません。そんな可愛い美鈴の歩への一途な想いは、「ブルーフレンド」の見所の一つです。同時期に連載していたなかよしの「野ばらの森の乙女たち」においても主人公に対して一途なヒロインが登場していましたが、やっぱり「偏愛」傾向を持つ女の子ってとっても素敵ですね!
 母親は亡くなり、父親からは愛情を向けてもらえず、父親の代わりに親しくしてもらった男の人には裏切られ…そんな美鈴の心の闇に灯りをともしてくれる歩でしたが、歩はごくごくフツーの女子中学生です。やがて美鈴の愛の重さに耐えきれなくなり、突き放す一幕もありました。
 それでもさすがは主人公、美鈴がピンチの時にはまるで王子様のように颯爽と駆けつけてくれます。

「…守らなきゃ どこにもすがる場所がない美鈴を あたしだけは守らなきゃ」

「―受け止めたい 傍にいてあげたい 美鈴の心の闇が溶けるまで ずっと」

 歩に依存して独占しようとする美鈴と、そんな美鈴を闇から救ってくれる歩の二人の関係がとても魅力的でした。


  • 「偏愛」から「友愛」へ―別々の道を歩むということ
 過去の強姦未遂事件から立ち直り、クラスの仲間とも打ち解けた美鈴。学園祭や修学旅行など楽しい学内行事も終わり、ついに卒業を迎えます。そこで衝撃的な展開が。

「…あたしたち きっと繋がってるよね 別々の高校行っても」

 予想を裏切られました。美鈴が成長したとはいえ、絶対に二人一緒の高校へ進学するものだと期待していましたので。ちょうど「けいおん!」において、四人が同じ大学に進学したように…。(あの展開に対して仲良しごっこなんていう批判もありますが、おそらくは大人の事情でしょう。四人揃っていないと、ストーリーを展開させづらいことこの上ないですし)
 私は、「けいおん」は離別が描かれていないので、まやかしの友情、対して「ブルーフレンド」は真の友愛などと言いたいのではありません。
 たしかに女の子って、どんなときでも一緒に行動をしようとしたり、口先だけで褒め合ったり…といった馴れ合い・仲良しごっこが多く、友情ももろくて壊れやすいなんて言われます。現に「ブルーフレンド」において井戸端会議をするモブキャラたちはそんな一面を見せていました。ですが「けいおん!」がそれに当てはまるというわけではありません。
 『「愛の形」で百合カップリングを分類する』の記事で定義した愛の6分類で、二つの作品を振り分けますと、「ブルーフレンド」の歩と美鈴の関係は「友愛」に、「けいおん!」の唯たちの関係はどちらかといえば「情愛」になると考えます(友愛要素をもちろん含みますが)。歩と美鈴は互いを認め合い信頼しあう関係だからこそ、それぞれの進路に進み、唯たちの関係はどちらかと言えば「家族」のような一緒にいて安心する関係ですから、同じ進路に進むことを選択したのです。離別が成長に繋がるということは否定しませんが、どちらが青春ものとして優れているかという議論は不毛でしょう。
 さて、高校に進学した美鈴は友人を作ることに成功したようです。大きな前進です。ですが歩から写メを受け取り、「―あたしのずっと大切な人」と口走るなど、かつて大好きなだった人のことを忘れられないでいるようです。高校在学中・卒業後、もしかしたら二人はまたどこかで会うのかもしれません…。そう期待せざるを得ません。


  • 終わりに―誰か忘れてる?
 周囲の登場人物がみなろくでもないからこそ、歩と美鈴の友愛が際立って美しく目に映ります。過去の辛いトラウマを克服する展開からはカタルシスも得られます。ゆえに「重い設定ながらもとても爽やかな作品」という印象を持つことでしょう。
 卒業後離ればなれになったり、学園祭で歩が王子様役をやらなかったり、美鈴が歩の将来の恋を応援したりと、人によっては百合と認められない場面も多数ありますが…。「友愛」成分の強い百合作品をお求めの方にオススメです。りぼんで連載していましたし、どちらかと言えば女性向けかもしれません。
 なお、作中において割と重要な役割をこなしていた五月さんに最後まで触れなかったのはお察しくださいませ。また、主役交代した3巻のご紹介は別の機会に。

  • 恋愛の対義語と類義語
 かつて「百合の分類法」において、恋愛の対極に友情・親愛を置きましたが、自分で行った分類ながら、最近はこれに対して疑問を呈しつつあります。恋愛(愛)の対義語は無関心であり、友情(友愛)をその対極に置くべきではありませんでした。
 「愛の形はそれぞれ」などという言葉がありますように、「愛」を含む熟語は日本語に多分にあります。「親愛」「友愛」「恋愛」「博愛」「敬愛」「性愛」「情愛」「偏愛」…などなど。愛といっても、紐解けばいろいろな意味があるわけですね。
 そこで百合作品・カップリングを恋愛と友愛の二極に分類するのではなく、それぞれの愛の形ごとに振り分けていけば、何か見えてくるのでは…と考えるようになりました。
 ところで、私にとっての百合の定義は、単純に言えば「女性同士の親愛」です。恋愛関係に至らないから百合じゃないだとか、性描写が描かれているので百合ではなくレズという振り分けをしません。「親愛」の情が女性間にあれば、そこに百合の花は咲いています。「友愛」「恋愛」などは親愛を具体的に表現したものになります。
 以下、百合を「友愛」「情愛」「敬愛」「恋愛」「偏愛」「性愛」の6つに分類していきます。


  • 「友愛」
・辞書的定義
①兄弟または友人間の情愛。 「 -の精神」
②友情を抱いている・こと(さま)。

・個人的定義
信頼」です。女性同士の友情。部活や仕事などを通して生じる女性同士の絆です。いわゆる姉妹愛も該当します。

該当するカップリング

赤座あかり⇔吉川ちなつ(ゆるゆり)
 恋を応援するもの・されるものの関係。
 その他、歳納京子⇔船見結衣、大室櫻子⇔古谷向日葵なども。京結やさくひまは幼い頃から一緒にいて、まるで婦々のように互いを信頼しているところもありますので、後述の情愛的傾向も強いです。

栗原歩⇔月島美鈴(ブルーフレンド)
 初期は、美鈴→歩の「偏愛」でしたが、作中の事件解決を通して、美鈴は歩から独立することに成功。二人の間には絆―友愛が芽生えます。

羽田ハルカ⇔黒井律(レンアイマンガ)
 漫画家と編集者。「仕事」を通して、お互いに信頼を深めていきます。

園田海未⇔高坂穂乃果⇔南ことり(ラブライブ!)
 アイドル活動を通して深まっていく女の子たちの友情物語。「ほのキチ」なんていう言葉もありますが、恋愛よりも友愛かな…という個人的偏見です。

高島ざくろ⇔橘希実香(素晴らしき日々)
 壮絶ないじめを克服して強まっていく二人の友情。バッドエンドルート(True)が自殺エンドということもあり、強いカタルシスを得られました。アダルトゲームということで、最終的には「性愛」の関係になりますが、個人的には蛇足に思えたり…。


  • 「情愛」
・辞書的定義
深く愛する気持ち。愛情。なさけ。

・個人的定義
一緒にいて「安心」するような関係です。一つ屋根の下で共同生活を送る家族が持つような愛情。

該当するカップリング

松田乙女⇔那珂川湊(星川銀座四丁目)
 家事が得意な不登校児と家事のできない先生の、一つ屋根の下の共同生活ものです。「恋愛」成分もところどころ感じさせますが、家族愛的傾向の強い作品です。

琴織さらさ⇔犬飼芹穂(飴色紅茶歓談)
 一つ屋根の下、喫茶店の仕事を通して深まる愛。「50年後も隣にいてね」という、プロポーズのような言葉が印象的です。

菊名清香⇔日吉ひとみ(エデンの東戸塚)
 菊名さんと日吉さんはアパートのお隣さん同士。二人の部屋を隔てる壁には大穴が空いていて、自由に行き来できるので、一つ屋根の下で一緒にご飯を食べたりする関係になります。


  • 「敬愛」
・辞書的定義
尊敬と親しみの気持ちをもつこと。

・個人的定義
憧憬」。「あこがれ」です。百合作品においては、後輩の、先輩に対する尊敬の気持ちがこれに該当します。

該当するカップリング

福沢祐巳→小笠原祥子(マリア様がみてる)
 ごくごく平凡な主人公・祐巳はある日、あこがれの先輩・小笠原祥子に呼び止められ「タイが曲がっていてよ」と身だしなみを正されます。

西園寺初美→三条泉(野ばらの森の乙女たち)
 あこがれのお嬢様学校に入学した初美は、容姿端麗な先輩・泉にあこがれを抱きます。このあこがれはすぐに恋愛感情へと変化していきますが…。

星宮いちご→神崎美月(アイカツ!)
 いちごは親友・あおいと共に見たアイドルライブをきっかけに、美月にあこがれを抱き、アイドル養成学校・スターライト学園の編入試験を受けることになります。


  • 「恋愛」
・辞書的定義
男女が恋い慕うこと。また,その感情。ラブ。

・個人的定義
 「乱心」。心臓がドキドキしたり、頬を赤く染めるなど、相手のことが気になって、心や体が乱れる様子です。

該当するカップリング

熊倉真理子⇔大橋亜紀子(GIRL FRIENDS)
 はじめはただの「友愛」だったのに、いつの間にか「恋愛」へと変化していて…。百合恋愛ものの王道作品ですね。

宮永咲⇔原村和(咲 -saki-)
 麻雀を通して深まる女の子同士の友愛…と思いきや、あまりに顔を赤らめるシーンが多すぎて、恋愛にしか捉えられません。有名な「そういえば、iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしい」というセリフもありますし。

花井さん⇔星野さん(花と星)
 因縁のある相手だったのに、最終的には…。余談ですが、「愛」の対義語として「憎」が挙げられる場合がありますが、憎も愛の一種ではないでしょうか。憎んで嫌っているからこそ、かえって相手のことが気になってしまう感情など…。


  • 「偏愛」
・辞書的定義
ある特定の人・物だけを愛すること。かたよった愛情。

・個人的定義
いわゆる「サイコレズ」です。特定の人物に対する独占欲。その人物に対して異様なまでの愛情を向けます。

該当するカップリング

暁美ほむら→鹿目まどか(魔法少女まどか☆マギカ)
 劇場版です。アニメ版なら友愛といったところです。まどかを独占したいという気持ちから悪魔に。「(偏)愛よ。」

東葉月→東初美(イヴ)(ヤミと帽子と本の旅人)
 姉のことしか眼中にありません。姉の寝室に入り込んで、残り香を堪能しながら自慰行為にふけったり、トイレの音を盗聴したり、姉が作った宇宙一マズいホットケーキを「このホットケーキは初美の天使みたいな気持ちそのものなんだ」(おいしいとは言ってない)と評したり…。

一条蛍→越谷小鞠(のんのんびより)
 こまぐるみを作ったり、こまぐるみを作ったり、こまぐるみを作ったり…。

姫宮千歌音→来栖川姫子(神無月の巫女)
 「貴女が好きなの。 貴女の瞳が好き。 春の銀河のようにきらめく瞳が好き。春の陽射しのような優しい眼差しが好き。…(以下略)」


  • 「性愛」
・定義
男女間の性的な愛情。

・個人的定義
 「肉欲」。相手を精神的ではなく、肉体的にも求める愛です。恋愛の延長線上にある性愛と、そうでない性愛があります。後者は成人向け漫画やゲームなどに多く存在するようです。私は残念ながらこのジャンルにあまり詳しくないので(「女の子×女の子コレクション」を読んだくらい)、カップリングについては書けません…。


  • まとめ
 「友愛」「情愛」「敬愛」「恋愛」「偏愛」「性愛」、6つの愛で百合作品を分類してみました。
 ただし各作品への補足でも触れているように、カップリングを単純にこの6つのいずれかに分類することは難しいです。「友愛」から「恋愛」に移行するカップリング、「敬愛」と「恋愛」を含んだカップリング、「友愛」と「情愛」を含んだカップリングなど、複数の愛に該当するカップリングは数多く存在します。そして作品単位で見ると、それら愛の複合体となりますので、より複雑になるわけです。
 たとえば、「ゆるゆり」なら…。
 基本はキャラクター同士のゆるりとした友愛がメインですが、京結、さくひまはまるで婦々を見ているようですし(情愛)、ちな→結、綾→京は恋愛ですし、あかねさんの妹に対する感情は明らかに偏愛のそれですから、「性愛」以外のほとんどを含んだ愛のバラエティーに富んだ作品だと言えます。

 あなたはどの「愛」に惹かれますか?

タイトル:野ばらの森の乙女たち
著者:白沢まりも(講談社コミックスなかよし)
発行日:1巻:2010年11月5日、2巻:2011年3月4日

nobara


「ねぇ 約束よ 野ばらの下でのできごとは だれにもいってはいけないの――」あこがれの由緒あるお嬢さま学校に入学した幼なじみの初美(はつみ)とさくら。ふたりは、入寮の日に出会った上級生・泉 (いずみ)と繭子(まゆこ)がキスしているのを見てしまって……!? 野ばらの下でのできごとはふたりだけのひみつ……。それは、白い花園の約束ごと。ふ たりの初めての恋を野ばらだけが見守っている――。
http://booklive.jp/product/index/title_id/259107/vol_no/001より引用。


  • 全国1,000万人のストパニファンに贈る

 かつて「ストロベリー・パニック」という作品がありました。12人の妹やウニメとして有名な「シスター・プリンセス」や現在人気絶頂の「ラブライブ!」と同じ、電撃G's magazine読者参加企画を原作にした作品であり、2006年にはアニメ化もしました。
 アニメ11話「流星雨」における涼水玉青のセリフ「キマシタワー」は百合を象徴するセリフとして、女の子同士がイチャイチャしている場面において実況やコメントなどで現在でも使用されていますね。(最近は「あら^~」に取って代わられつつもありますが…)

  さて、そんな「ストロベリー・パニック」のアニメですが、この作品は女性同士の恋愛を真っ正面から描いた作品にしては珍しく、女性同士が恋愛することに関 して一切の葛藤が生じません。「世間からどう見られるんだろう…」。そんな不安はありません。女性同士の恋愛がさも当然のように認められている世界観なの です。
 そんな特殊な世界を舞台に、主人公の蒼井渚砂は、聖ミアトル女学園に編入をします。そこでルームメイトの涼水玉青や学園の憧れの星・エトワール様こと花園静馬に見初められるのですが…


  • 三角関係の結末は…

 結論を先に申し上げますと、渚砂はエトワールこと静馬とくっつきます。
 「渚砂、愛してるよ!」
 その一言で、エトワール選という一大イベントの会場にて、玉青は渚砂を略奪されてしまいます。
  ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。それは玉青と静馬、どちらに感情移入していたかによるでしょう。玉青に感情移入していたファンにとってはもち ろんバッドエンドです。私も、どちらかといえば、先輩・後輩の「憧れ」的な関係より、同級生同士の「情愛・恋愛」関係を重視するたちなので、最終話の略奪 シーンを見た瞬間呆然となりました。確かにどことなく渚砂が静馬を選び、玉青は当て馬に過ぎないということは至る所でほのめかされていましたが、それでも ストパニスタッフを信じていました…。
 ちなみに「ストロベリー・パニック」では、ミアトルの他に「聖スピカ女学院」と「聖ル・リム女学校」、そ して三校合同の寄宿舎「聖アストラエア合同寄宿舎」、通称いちご舎も舞台となっているのですが、そのうちの一つ「聖スピカ女学院」においても三角関係が描 かれていました。此花光莉とルームメイトの南都夜々、そして学園の王子様である鳳天音の三角関係です。
 夜々が光莉の唇を奪うなど嬉しいシーンもあったのですが、やはりというかなんといいますか、光莉は天音を選択し、25話では情事をほのめかす朝チュンまで描かれていました。
 「ストロベリー・パニック」は、同級生・ルームメイト同士の恋愛を応援する百合好きにとっては、少々辛口な作品なのでした。


  • ヒロインと幼馴染みと王子様と…

 さてここでようやく「野ばらの森の乙女たち」の紹介です。
 女子校を舞台にした女の子同士の親密な関係を描いた作品。元々は少女向けの少女漫画ということで、百合小説の金字塔「マリア様がみてる」と比較したくなりますが、むしろどちらかといえば「ストロベリー・パニック」と似通っています。

・舞台は名門女子校
・女の子同士の恋愛
・主人公が学園の王子様に一目惚れする
・主人公のことを思う幼なじみ・ルームメイトの存在

 幼馴染みという点を除けば、ストパニですね。
 ですが一点だけ、「ストロベリー・パニック」と異なる点を挙げるとすれば、それは学園の王子様・泉のことを強く想う繭子の存在でしょう。
 「野ばらの森の乙女たち」の素晴らしい点はまさにここにあります。初美⇔穂波、泉⇔繭子のカップリングが成立するので、メインヒロインが誰も悲しまない「優しい世界」が実現するのです。
  私はこの作品を読んだとき、上述の「ストロベリー・パニックの衝撃」を引きずっていたこともあり、誰も悲しまないというハッピーエンドにすこぶる癒やされまし た。特に百合においては何かと不遇な立ち位置にある、ストパニにおける玉青ポジションの幼馴染み・さくらの恋が実ったことが!


  • ややもすればサイコレズ

  三角関係が解消され無事平穏に二つのカップリングができる以外のこの作品の見所は、なんといっても幼馴染み・穂波さくらの存在でしょう。一見お淑やかで大 人しい女の子なのですが、主人公・初美に対する愛情が尋常ではなく、そのギャップが最高に可愛いです。ややもすれば「のんのんびより」のほたるんや「ヤミ帽」の葉月などと同様の「偏愛」にも分類されかねない重い愛ですね。ただ掲載誌が、よいこの雑誌「なかよし」ということもありまして、上述のサイコな連中 に比べれば幾分かマイルドなテイストです。

・キスをするふりして、「ほんとうに…キスしたら 初美どんな顔するかな―」
・初美と、ダンスの手解きをする泉の間に割り込んで、「初美に…近づかないでください!!」
・初美の作ったお世辞にもうまいとはいえないマスコットを、こっそりと買い取り大事そうに握りしめる。
・ケンカの後に、突然の仲直りのキス
・初美を押し倒して「このままだとわたし初美になにするかわからないよ?」

 ややマイルドとはいえ、とても「なかよし」連載の作品には思えませんね…。嫉妬と独占欲全開です。
 そういえば、学園の王子様と仲良くしていたところ、ロッカーにゴミを詰められる、「インラン女」と書かれた紙を貼られるなどといった、少女漫画らしい一幕もありました。


 女の子に対する憧れ、女の子を好きになることに伴う葛藤、そして幼なじみの嫉妬。
 恋愛系百合作品における王道を行く作品で、とても読みやすいです。全2巻でまとまっていますし。(巻末のおまけ漫画で「第3巻もお楽しみに!!」なんていう煽り文句が踊っていますが、2014年11月現在、残念ながら3巻が出たという話は聞いていません)
 「女子校を舞台にした恋愛ものを読みたい」という百合初心者の方に是非ともオススメしたいです。「青い花」や「ストパニ」よりも取っつきやすいと個人的には思います。それから同級生・幼なじみ同士の恋愛にドキドキする方、そしてなにより「ストロベリー・パニック」で辛酸を嘗めた方にもぜひ手にとってほしい一冊です。

タイトル:この時間が大好き。
著者:ナナセミオリ・コキリン(山猫BOX)
発行日:2013年2月3日

040030103594-1p


小さな頃からずっと一緒 いつでも一緒
そこにいるのが当たり前の存在

いつも冗談の様に求愛してくる瑞穂。そんな瑞穂の言葉を本気にしてはいないけど、
そんなやりとりや瑞穂と一緒にいる事が好きなつばめ。

男子からモテて告白をされまくっては断り続けていた瑞穂が、とある男子の告白を受けようかなとつばめに相談。
今まで断り続けていた瑞穂からの急な話ですごく遠くに行ってしまいそうな感覚が沸いて、
必死に付き合うのを止めようと説得するが・・・。

とっても純粋で可愛い女の子同士の恋の悩みに、読んでいるだけでとっても惹き込まれちゃう!
瑞穂とつばめ、2人の青春の1ページをどうぞご堪能下さい!

とらのあなWebSiteより引用
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/10/35/040030103594.html



 山猫BOXさんから2013年に発行されたオリジナル百合同人誌です。
 全32ページという短編作品ながら、「幼少期に交わした結婚の約束」「男の子に告白されるヒロインと、それに嫉妬するヒロイン」「そして(百合的)ハッピーエンド=しあわせなキス」と恋愛百合作品における重要な要素がうまく納められている濃密な作品です。
 よく「百合作品には男は不要」なんて言われますけど(「百合男子(倉田嘘/コミック百合姫)」の中でも「百合というものに最も不要な存在 それは男!!」なんて言われていましたね)、必ずしもそうではないと私は考えています。男がいてもいなくても、どちらにしても魅力ある百合作品は存在します。今回紹介する「この時間が大好き。」は百合における男の存在意義について考えさせてくれる作品の一つです。
 しばしば百合作品の中では、男の子に恋愛感情を抱く、いたって普通な性的指向を抱くヒロインと、そんなヒロインに対して友情以上の親密な感情を抱くヒロインが出てきます。「この時間が大好き。」もそうですし、たとえばアニメ「夏色キセキ」の優香と凛子の関係もそうでした。優香は先輩のたかしに恋愛感情を抱き、凛子はそんな優香に対して友情以上の何かを抱いている様子でした。少女漫画の中でも、りぼん連載の「ひよ恋(雪丸もえ/りぼん)」8巻辺りで、ヒロインのひよりがクラスメイトの高身長イケメン・ゆーしんと付き合うことになり、ひよりの幼馴染み・律花がそれに嫉妬、ケンカをしてしまうという展開があったと記憶しています。
 そのような数ある「男―女―女」の三角関係作品の中において、この作品の特異なところは、ヒロインの瑞穂はそもそも告白された男の子に対して恋愛感情を抱いていないということです。
 「なら私たちもう結婚するしかないよね」「じゃあ女の子同士でもドンと来い!」と、はじめからつばめに対する恋愛感情をほのめかせていますし、告白を受け入れるかどうか相談したのも、つばめが付き合うことを反対して、これをきっかけに彼女との仲が深まると期待しているからに他ならないのです。あくまで瑞穂はつばめが大好きで、つばめも瑞穂が好き。この作品における男の子の役割は、「女の子は男の子と付き合わなくてはならない」「女の子は女の子と付き合ってはならない」という過酷な運命を乗り越えた先にある二人だけの優しい世界を見つけるための一種の舞台装置なのでした。
 そしてもう一つの見所はなんといってもキスシーン。告白をした男の子の前で、瑞穂はつばめの唇を奪い、「私ってこういう子なんです」「女の子同士は冒険です」と発言するのですが、ここから瑞穂の覚悟が伺い取れます。
 ヒロイン同士が恋愛関係に落ちる百合作品においては、多くの場合その関係をひた隠しにして、公然とはいちゃつかないものですが(もちろんストロベリーパニックのような特殊な世界観の作品は例外ですが)、この作品はそうではありません。上述の運命や世界の一般常識から外れることを全身全霊で受け止め戦っていく…そんな瑞穂の芯の強さを感じ取ることができます。

 男の子の登場する百合作品は数多くありますが、「この時間が大好き。」では男の子に明確な役割があるのにも関わらず、ヒロイン二人は男の子に恋愛感情を抱かないので、「百合作品においては男は不要」と考えている方に対する入門書としてオススメしたい一冊です。もちろん百合初心者にもオススメです。

このページのトップヘ