「少女同士の友情」(けいおん!、アイカツ!)
 「(それより一歩進んで)身近な女性を意識してしまう女性」(のんのんびより、ご注文はうさぎですか?、きんいろモザイク)
 「女子校の寄宿舎で共同生活する少女同士の親密な関係」(ストロベリーパニック、FLOWERS、白銀ギムナジウム、野ばらの森の乙女たち)などなど、数多の百合作品はある程度類型化することが可能です。

 今回は少女漫画などで多く見られる「いじめ」を含んだ百合作品についてまとめてみます。
 百合作品におけるいじめというと、(A)女子校における王子様に見初められた主人公が、嫉妬した他のキャラクターに嫌がらせを受ける (B)いじめを克服することによって、二人(ないしはそれ以上)の間で強い絆が芽生える、の2パターンが思い浮かびますが、今回はもっぱら(B)のパターンを扱います。

 「いじめ百合」の代表作品は、やはり五十嵐かおる先生の「いじめ」です。ネット界隈では、「瞳の異様に大きい漫画」として認識されているこの作品ですが、実のところ良質な百合漫画です。いじめという絶望を乗り越え、少女同士の友情が深まる様が、克明にかつ完結に描かれています。

以下はストーリー展開の一例です。

「はじまりの予感」
 主人公・咲坂麻那が編入したクラスでは、ヒロイン・里見智子に対するいじめが公然と行われていた。いじめの主犯格は貴水玲香、麻那は正義感から彼女にいじめをやめさせるよう訴えるが、玲香は麻那がいじめの身代わりになることを提案する。
 新しくいじめのターゲットになった麻那は嫌がらせを受けるものの、すぐそばに智子がいるのでいじめをものともしなかった。二人の間には絆が芽生え始める。
 しかしそれを快く思わない玲香たちは、二人の友情を引き裂こうと画策する。策にはまり、一度はバラバラになる二人だったが、麻那の危機に智子が駆けつけると、二人は友情を再確認し、いじめを克服する。
 二人は手をつなぎ、新しい一歩を共に踏み出すのだった。(終)


「きみに届く声」
 「ひとりぼっちはいや」
 主人公・水野唯はずっとそう思っていた。所属するグループのリーダー・灯村奈美江に宿題のノートを写させるなど、内心利用されているだけと頭の中では分かっていても、それを拒否することはできなかった。その一方で、一人で行動することの多いクラスメイト・七瀬マキの凛然とした振る舞いにあこがれを抱きつつもあった。
 ある日、唯は奈美江に万引きをしようと誘われる。断ることができずに流されるまま犯罪を犯してしまう唯。しかし「共にイケないことをする」という絆に心をときめかせ始めていた。だがある日、唯はストレス解消から一人で万引きを実行するものの、警備員に捕まってしまう。
 万引きの噂が学園内で広まってしまう。「ドロボー死刑」と書かれた紙を下駄箱に入れられる、机に花を供えられる、水を浴びせかけられる…これまで友達と思っていた奈美江たちから嫌がらせを受けるようになる。
 「嫌がらせをやめて」と懇願する唯に、奈美江は「欲しいバッグを万引きしたら許す」と提案する。友情と犯罪の天秤に心が揺れ動く唯。万引きをする手前まで行くものの、マキの「万引きなんて卑怯なことする人と誰が本気で友達になりたいと思う!?」という言葉を思い出し踏みとどまる。
 唯はマキという新しい友達を手に入れ、二人の間には確かな絆が芽生え始めていた。(終)


 共にいじめという絶望を乗り越えて、少女同士の絆が深まる様が描かれています。
 これを百合作品と言わずしてなんというのでしょう。「いじめ」を百合作品として捉える人があまりいないのか、そもそも女児向け作品なので読む方があまりいないのか、「いじめ 五十嵐かおる 百合」で検索してもそれらしいレビューにたどり着かないので、今回はこの作品にスポットライトを当ててみました。

 かつて百合作品の四分類という記事で「友情・信頼×シリアス」型という項目を挙げましたが、もちろん「いじめ百合」はこの分類の典型例です。何度も書きますが、「絶望の淵に立った少女を、少女が助け出す」という構図ですので。
 18禁ゲーム「素晴らしき日々」の3章(ハッピーエンド)もこの類型ですし、2011年に放映され大ヒットし、今でも同人界隈で賑わっている「魔法少女まどか☆マギカ」も、過酷な運命を背負ったまどかをほむらが救い出すという点から、この構造を持った作品だと言えそうです。(余談ですが、私が「劇場版 魔法少女まどかマギカ[新編]叛逆の物語」を素直に受け入れられなかった理由の一つとして、上述の友情・信頼を期待していたのに、ほむらがただのクレイジーサイコレズと化していたことが挙げられるのでは…といまとなって感じます)

 他に「いじめ百合」を扱った少女漫画としては、私はそこまで少女漫画に造詣が深い訳ではないので大した数も上げられないのですが、りぼん連載の「絶叫学級(いしかわえみ)」(短編ホラー漫画ですが、少女同士の友情を扱った作品が何話かあります。3巻「黄泉の真実」、6巻「悪魔になった日」、12巻「黄泉様の言うとおり」…など。またくりくりとした大きい瞳のキャラクターがとても可愛いのも素敵です。一言で言うと乙女ゲーのヒロインのような感じでしょうか)、デザートに連載されていた「トモダチごっこ(ももち麗子)」(上述の「はじまりの予感」的な構造に、自殺と過去へのタイムスリップを加えた作品です、ヒーロー(男の子)が出てきますが…)
 次回はこれらのいじめを扱った百合作品についてまとめていきます。