タイトル:この時間が大好き。
著者:ナナセミオリ・コキリン(山猫BOX)
発行日:2013年2月3日

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小さな頃からずっと一緒 いつでも一緒
そこにいるのが当たり前の存在

いつも冗談の様に求愛してくる瑞穂。そんな瑞穂の言葉を本気にしてはいないけど、
そんなやりとりや瑞穂と一緒にいる事が好きなつばめ。

男子からモテて告白をされまくっては断り続けていた瑞穂が、とある男子の告白を受けようかなとつばめに相談。
今まで断り続けていた瑞穂からの急な話ですごく遠くに行ってしまいそうな感覚が沸いて、
必死に付き合うのを止めようと説得するが・・・。

とっても純粋で可愛い女の子同士の恋の悩みに、読んでいるだけでとっても惹き込まれちゃう!
瑞穂とつばめ、2人の青春の1ページをどうぞご堪能下さい!

とらのあなWebSiteより引用
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/10/35/040030103594.html



 山猫BOXさんから2013年に発行されたオリジナル百合同人誌です。
 全32ページという短編作品ながら、「幼少期に交わした結婚の約束」「男の子に告白されるヒロインと、それに嫉妬するヒロイン」「そして(百合的)ハッピーエンド=しあわせなキス」と恋愛百合作品における重要な要素がうまく納められている濃密な作品です。
 よく「百合作品には男は不要」なんて言われますけど(「百合男子(倉田嘘/コミック百合姫)」の中でも「百合というものに最も不要な存在 それは男!!」なんて言われていましたね)、必ずしもそうではないと私は考えています。男がいてもいなくても、どちらにしても魅力ある百合作品は存在します。今回紹介する「この時間が大好き。」は百合における男の存在意義について考えさせてくれる作品の一つです。
 しばしば百合作品の中では、男の子に恋愛感情を抱く、いたって普通な性的指向を抱くヒロインと、そんなヒロインに対して友情以上の親密な感情を抱くヒロインが出てきます。「この時間が大好き。」もそうですし、たとえばアニメ「夏色キセキ」の優香と凛子の関係もそうでした。優香は先輩のたかしに恋愛感情を抱き、凛子はそんな優香に対して友情以上の何かを抱いている様子でした。少女漫画の中でも、りぼん連載の「ひよ恋(雪丸もえ/りぼん)」8巻辺りで、ヒロインのひよりがクラスメイトの高身長イケメン・ゆーしんと付き合うことになり、ひよりの幼馴染み・律花がそれに嫉妬、ケンカをしてしまうという展開があったと記憶しています。
 そのような数ある「男―女―女」の三角関係作品の中において、この作品の特異なところは、ヒロインの瑞穂はそもそも告白された男の子に対して恋愛感情を抱いていないということです。
 「なら私たちもう結婚するしかないよね」「じゃあ女の子同士でもドンと来い!」と、はじめからつばめに対する恋愛感情をほのめかせていますし、告白を受け入れるかどうか相談したのも、つばめが付き合うことを反対して、これをきっかけに彼女との仲が深まると期待しているからに他ならないのです。あくまで瑞穂はつばめが大好きで、つばめも瑞穂が好き。この作品における男の子の役割は、「女の子は男の子と付き合わなくてはならない」「女の子は女の子と付き合ってはならない」という過酷な運命を乗り越えた先にある二人だけの優しい世界を見つけるための一種の舞台装置なのでした。
 そしてもう一つの見所はなんといってもキスシーン。告白をした男の子の前で、瑞穂はつばめの唇を奪い、「私ってこういう子なんです」「女の子同士は冒険です」と発言するのですが、ここから瑞穂の覚悟が伺い取れます。
 ヒロイン同士が恋愛関係に落ちる百合作品においては、多くの場合その関係をひた隠しにして、公然とはいちゃつかないものですが(もちろんストロベリーパニックのような特殊な世界観の作品は例外ですが)、この作品はそうではありません。上述の運命や世界の一般常識から外れることを全身全霊で受け止め戦っていく…そんな瑞穂の芯の強さを感じ取ることができます。

 男の子の登場する百合作品は数多くありますが、「この時間が大好き。」では男の子に明確な役割があるのにも関わらず、ヒロイン二人は男の子に恋愛感情を抱かないので、「百合作品においては男は不要」と考えている方に対する入門書としてオススメしたい一冊です。もちろん百合初心者にもオススメです。